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粋な.街中古民家(いきなまちなかこみんか)

ひとつの古民家再生の形

場所:四日市市 / 完成:2022年5月 / 延床面積:66.20坪(全床面積) / 構造:木造軸組 / 種別:リフォーム / 施工:株式会社ビコーインプレス

 

今回の依頼で、古民家というものが街中(まちなか)にもある事を改めて認識しました。昭和、平成、令和と、街はどんどんと再生を繰り返していくのが当たり前のように感じていましたが、あらためて見回すと、街中に取り残されるように佇む古いお家は、どんな街にでもあるのがわかります。

ただし街中(まちなか)にある古民家は、郊外、田舎にある古民家とは暮らしの性格が違うかもしれません。住人(すみびと)が、常に新しい文化や情報に敏感であり、密集する周囲の家々と一緒に少々刺激のある暮らしを楽しんでいたことがわかります。その姿は、けっして取り残されたものではないようです。

 

依頼主は、戦後まもなく建てられたこの家をご両親から相続しました。ご両親は、音楽や唄、歌舞伎、日本画などをとても楽しまれていた様子で、建物自体にも細部に『粋』な設えがたくさんありました。

各部屋に吊り下げられた照明の笠は、ガラスのものも木工と障子紙で作られたものも一つ一つ手づくりの趣があります。建具も、一つ一つ違います。それは寄せ集めという事ではなく、框や組子、引手や襖紙、ガラス等々、すべて遊び心いっぱいで作られています。

実は依頼主ご本人は、もうここに住むことが出来ないという事情ですが、この『粋』な建物を、今壊してしまいたくない。街は大きく変化していきますが、地域の人々の心を繋ぐため、活性化のためにも、しばらく間、地域の役に立てるような建物にならないかというのが、願いでありご希望です。

 

古民家改修といえば、まず大掛かりな構造改修を思い浮かべますが、改修の形は様々です。依頼主の希望(どのような改修をしたいのか)と実際の建物の状態、そしてコスト(予算)、時間も検討の要素です。時間とは施工の時間ではなく、この建物がこれまで生きてきた時間と、これから先に生きる時間です。どんな素晴らしい建物でも、闇雲に大改修を行う事は出来ません。すべきでないのかもしれません。冷静な判断と、出来る事、出来ない事、今やるべきこと、今やるべきでないことを繰り返し話し合います。

予算を含め厳しい条件ではありましたが、本建物では、全体の構造バランスを確認し、構造補強としては蟻害や腐食等による交換しなければならない部分の入れ替えと、床下の防蟻処理を施しました。その上で、1階の傷んだ畳を交換し、開け閉めに支障が出てきたすべての建具を調整しました。古くなったトイレとキッチンは、今の意匠に負けないように・・・しかしコストは最小限で、さらに気楽に使えるように作り替えています。そして、地域の方に使ってもらう時の裏動線を確保するため、押入れを改造して階段をもう一つ設置しました。

 

浮いた壁をやり直すなど細かな工夫はまだまだあり、図面には描けない事も施工中にはたくさん出てきます。しかしこの建物は、大工さんも左官屋さんも、そして現場監督も、いつも以上に力が入っているようでした。本当の彼らの技が出せるところなのか、新築以上のこだわりと熱量を感じます。

 

 

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